
茨城県土浦市で蓮根を育てる「すずき蓮根農園」。代表の鈴木さんは、食品メーカーで働いたのち、家族と過ごす時間を大切にしたいという思いから、地元での就農を決意しました。
「土と水が違えば、蓮根の味も変わる」と語るその言葉には、蓮根づくりへの真剣な姿勢が感じられます。
今回は、蓮根づくりにかける思いやこだわり、そしてこれからの挑戦についてお話を伺いました。
茨城県土浦市で蓮根農家になったきっかけ
転機は全国転勤のタイミング
鈴木さんは、もともと食品メーカーに12年ほど勤務されていました。
仕事に打ち込むなかで全国転勤の時期を迎え、単身赴任の可能性も出てきたといいます。
そこで、家族と過ごす時間を大切にしたいという思いが強まり、地元・茨城県土浦市での暮らしを選びました。
ちょうどその頃、ご両親が蓮根農家を営んでいたことも背中を押し、農業の道に進むことを決意。
鈴木さんが暮らす土浦市は、蓮根の一大産地として長い歴史のある地域です。

小さなころから蓮根のある風景が身近にあり、自然とその土地で農業をするという選択が心に浮かんだといいます。
食品メーカー時代の経験が今の農業に活きている
「会社員をやっていてよかったと思っています」と鈴木さんは話します。
メール対応やコスト管理、商品管理など、会社員時代に身につけたスキルが、現在の農業経営に大きく役立っているそうです。
農業だけでは得にくい視点を持つことで、改善策を考え、前年を超える成果を目指す姿勢が自然と根づいているといいます。
蓮根農家・鈴木さんの試行錯誤|土づくりへのこだわりと挑戦
有機堆肥と微生物を活かした“土づくり”への挑戦
「いい蓮根を育てるには、まず環境を整えることが大事なんです」と話す鈴木さん。
特に力を入れているのが“土づくり”です。

蓮根は泥の中で育つため、環境づくりが味や形、風味などに大きく影響します。
そのため、昔ながらの栽培方法にとらわれず、より良い環境をめざして試行錯誤を重ねてきました。
現在は有機質の堆肥を活用し、微生物の力を生かした栽培に取り組んでいます。
悪い菌をゼロにするのではなく、良い菌を増やしてバランスをとり、蓮根がのびのびと育つ環境づくりを心がけているそうです。
一度で成功しないからこそ、毎年試す改善の積み重ね
蓮根は一年に一度しか栽培できない作物です。だからこそ、一つひとつの試みがとても大切になります。

就農当初は、圃場の土を理想の状態に整えるまでに多くの時間と手間がかかったといいます。
鈴木さんは、他の生産者の成功事例を参考にしたり、農業ジャーナルなどで最新情報を取り入れながら、毎年改善を続けています。
「一度で正解にたどり着くことはないので、毎年試すことを大事にしています」と鈴木さん。
小さな積み重ねの連続が、今の蓮根づくりにつながっています。
野菜ソムリエサミット金賞受賞|確かな品質が認められた蓮根
すずき蓮根農園の蓮根は、2025年の野菜ソムリエサミットで金賞を受賞しました。
「自分たちの蓮根が客観的に評価されたことが、何よりうれしかったです」と鈴木さん。

この受賞をきっかけに、多くの人に蓮根の魅力を知ってもらう機会が広がったといいます。
「これからも“また食べたい”と思ってもらえる蓮根を届けたい」と語る姿からは、誠実なものづくりへの思いが伝わってきます。
※野菜ソムリエサミットは、野菜ソムリエが「美味しさ」を軸に青果物や加工品を評価する品評会です。
オリジナル蓮根レシピで広がる“すずき蓮根農園”の挑戦
もっとたくさんの人に蓮根を好きになってもらいたい
鈴木さんは、幅広い世代の方に蓮根の魅力を知ってもらい、「食べてみたい」と思うきっかけをつくることを大切にしています。
一方で蓮根は、価格が少し高めなこともあり、その魅力をどう伝えるかが課題です。
スタッフとともに直売所(以下写真)のリニューアルや蓮根の加工品、オリジナルのてぬぐいの作成など、さまざまな取り組みを進めています。

こうした活動を通して、蓮根をより身近な存在にしていきたいと話します。
64種類以上のオリジナル蓮根レシピで広がる楽しみ方
すずき蓮根農園の直売所では、週末に1cmほどにカットした「蓮根ステーキ」を試食用に提供しています。調味料を使わずに焼くだけで、蓮根本来の味を楽しめるのが魅力です。

また、鈴木さんは家庭でも手軽に蓮根を楽しんでもらえるよう、現在64種類以上のオリジナルレシピを考案しています。れんこんバーグやパスタ、炒め物など、身近な食材で作れるレシピが中心です。

「蓮根を特別な食材ではなく、日常の食卓に自然に取り入れてほしい」という思いが込められています。
“おいしい”の声が、次への力になる
鈴木さんにとって何よりの励みは、お客さんからの「おいしかった」という声です。
その言葉が「もっといいものを作ろう」という気持ちにつながっています。支えてくれる周囲の人や、食べてくれる人の存在が、鈴木さんの原動力。
「これからも、また食べたいと思ってもらえる蓮根を届けていきたい」と、穏やかな笑顔で話してくれました。

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